東京高等裁判所 昭和48年(う)2838号 判決
被告人 増子博
〔抄 録〕
そこで、記録及び当審における事実取調の結果を総合すると、所論指摘の建設工事請負契約書は本件後に作成されたものであって、本件工事着手前には本件工事につき何らの契約書面も作成されていなかったことが明らかであって、しかも請負契約の内容となる重要な項目である請負代金の額及び工事完成の時期について明確な取極めがあったとは認められない。そして、本件後にではあるが、本件工事に関する報酬としては労務者の賃金と諸雑費の合計額が吉川組から小島組に支払われていると認められることに徴すると、本件工事着手前に、本件工事に関する報酬の支払は、右の方式による旨の合意があったものと推認され、さらに本件工事にあたって吉川組の職員が工事の一部に従事したことも認められるのであって、これらの事実に徴すると、吉川組と小島組との間に本件工事について民法所定の典型的契約としての請負契約があったとは認めることができず、右認定に反する証拠は信用することができない。
しかし、前記の本件証拠を総合し、特に証拠上認められる、吉川組は本件工事の施工の専門業者ではないこと及び被告人が本件工事の現場において、小島組の従業員として具体的仕事の段取りと人夫の配置を決め、また仕事の細部について人夫に対して指図をしていたことをも併せ考えると、吉川組と小島組との間に、小島組が主として本件工事の施工にあたる旨の合意があったことが認められるのである。もっとも、吉川組が本件工事の設計の大綱を作成し、工事が設計通りに行なわれているかについて監督をしたのであり、工事計画の変更を指示したこともあり、また小島組に対して工事用の機械、器具及び材料等の大部分を貸与し、あるいは支給したものであること及び吉川組の職員が前記のように本件工事の一部に従事したことがあり、また吉川組が前記のような報酬の支払方法をしていたことは、証拠上認められるけれども、それだからといって未だ前記の認定を左右することはできない。従って、所論のように、吉川組が工事の主体であって、小島組としては単に人夫を供給したにすぎないものとは到底考えることはできず、右認定に反する被告人及び証人小島市太郎の供述証拠等は信用することができない。
さらに、被告人が小島市太郎に任せられて、本件工事の現場責任者となり、原判決のように本件工事の指揮監督及び労働者の保安の業務に従事し、本件排水管埋設工事においても、溝の堀削の具体的方法を自ら定めて施工し、原判示の太田ヨシミ外一名に指示して右溝に入らせてヒューム管の継ぎ合せなどの作業にあたらせたことが、証拠上何れも明らかに認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そうすると、被告人は、小島組の事業としての本件工事の労働者に関する事項について事業主である小島市太郎に代って労務管理を担当した者であるから、同人のために行為をする者として前記法律にいう使用者にあたること、また、原判示のような業務上の注意業務を有することが、明らかであるといわなければならない。
(浦辺 環 内匠)